幕末オオカミ
翌日の夜。
昨日のうちに八木邸に帰ったあたしは、新見をある場所に呼び出しておいた。
祇園の貸し座敷、『山の緒』。
山崎監察がつかんできた、新見が前から狙っていたという芸妓を装い、手紙を渡したんだ。
夕方、のこのこ出かけていく新見を見送り、あたしはすぐに前川邸へ向かった。
そこで忍装束に着替え、土方副長と沖田に合流した。
「今回は、この三人で行く。
小娘は、目立たないようについてこい」
「土方さん、楓は芹沢の監視につけた方がいいんじゃ……」
「大丈夫だよ、沖田。
芹沢は、今日はお梅さんとのんびりするって言ってたから」
「そうか……」
今日は、晴れている。
うっかり空を見上げれば、月が見えてしまいそうだ。
「無駄話してる余裕はねぇ。行くぞ」
あたしたちは副長について、『山の緒』に向かった。
沖田の浅葱色の隊服と、土方の黒い羽織りが、並んでゆらゆらと歩いていた。