幕末オオカミ
「……やはり、気づいておったか」
立ったままの新見は、正座した土方副長をにらみつける。
「そりゃあ、気づくでしょう。
敵の浪士にも、町の者にも、見られてるんじゃないですか?
その薄汚ない獣のしっぽを」
土方副長の声の響が、冷たく低く、変わっていく。
「浪士が芹沢さんを見て言った。
『やはり、もののけか』と。
これ以上有名になる前に、そのもののけを体から追い出していただきたい」
土方の後に座った沖田が口ぞえする。
「お、お前らだって、妖術使いじゃないか」
新見が反論した。
その言葉に、土方の目がぎらりと光る。
「……俺らのは、もののけの力じゃねぇ。
神の力だ。霊力といってもらおう」
「なんだと……」
「正直にいってくれよ、新見さん。
あんたは芹沢や俺達をどうしようってんだい?」
いつのまにか、土方副長の口調が変わっている。
同時に、ひんやりとした空気が部屋を包んだ。