幕末オオカミ
「…………」
「妖術を使ってお梅を菱屋から強奪し、芹沢に与えた。
そうして芹沢を骨抜きにして、今度は俺達に何をしようってんだ?
聞くところによると、近藤派を殲滅して、新撰組を芹沢派……いや、自分のものにしようとしてるらしいじゃねぇか。
反論があれば、言ってみろ」
「く、そ……っ!!」
新見は、奥歯をぎりぎりと噛んだ。
そして、その刀の柄に手をかける。
「新見さん、ここは武士らしく、腹を切ってくれねぇか」
しかし新見の手は脇差ではなく、長刀にかかったまま……。
「そうはいかない。抜け、土方」
新見は静かに言うと、その体を震わせた。
ばき、と何かがきしむような音がして、新見の体から、キツネのしっぽが飛び出した。
顔はみるみるうちに鋭角にとがり、口は裂け、三味線の弦のようなヒゲが光って見えた。
「あの時見たキツネだ……!」
「小娘、独り言は小さな声で言え!!」
土方副長が立ち上がり、こちらに向かって怒鳴った。
そ、それは出て行ってもいいってこと?
あたしはおずおずと天井の板をはずし、顔をのぞかせた。