幕末オオカミ
1.脱出
シャン、と鈴の鳴る音が遠くから聞こえた。
「上様のおな~り~」
はいはい。
どうせこっちには来ないんでしょ。
さささ……
たくさんの足音は、やっぱり遠ざかっていくばかり。
こちらに近づいてもこない。
部屋づきの侍女も、ふわぁとあくびをした。
あーもう、毎日毎日暇なんだけど。
ねえ、上様。
無理やり奥入りさせたわりには、あんまりじゃあありませんか。
「……今夜は、早く休もう」
「はい」
侍女は嬉しそうな顔をし、寝床の支度をする。
あたしの企みも、知らずに。
そう。
あたしは、今夜。
この、大奥から抜け出します。