幕末オオカミ
「土方さんは、最初からああなることがわかってたんだろう」
沖田はまんじゅうを食べる手を止めて、言った。
「だから、近藤さんを連れて行かなかった」
「…………」
「新見がただ闇討ちにされたんじゃ、芹沢派はすぐに俺達の仕業だとさとって、近藤先生に報復に出るだろう。
しかし自分で切腹したならば、誰も文句は言えない」
「それって……」
「土方さんは、近藤先生が悲しむことより、その命を最優先したんだ」
沖田の言葉には、確信の響きがあった。
「もう、あの人は後戻りできない。
本当に……自分だけが、鬼になろうとしてる」
沖田の低い声に、わずかな哀切が込められているように思えた。
鬼になろうとしてる?
それは、いったい……
どういうことかとたずねようとした瞬間、寺の門をくぐって、誰かがこちらに駆け寄ってきた。
「おーい楓ー!」
「平助くん!」
「ちっ……なんだあいつ、犬みてぇだな」
沖田の言うとおり、赤い髪の平助くんは、笑顔で手を振りながら走ってきて……
確かに、可愛い犬に似ていた。