幕末オオカミ


「無駄にはならねぇよ」



口を開いたのは、土方副長だった。



「もののけの力を、ただの人間が身につける方法がある。

そのことをつかんだだけでも、もうけものだった」


「そんな……」


「鴨が梅に惚れてようが、そんな事は知ったことじゃねぇ。

俺達は、武士だ。

主君の命に背くことだけは、できねぇ」



きっぱりと言う土方副長の声には、寸分のブレさえなかった。




「何が……何が武士だ!

戦意を失った者まで闇討ちにするのが武士か!?

お前っ、最初からこうなるように仕向けたんじゃないのかっ!?」


「楓、やめろ!!」



土方副長につかみかかろうとしたあたしを、沖田が羽交い絞めにする。



「鬼!!お前は鬼だっ!!」



その力に敵うはずもないあたしは、大声で怒りをぶつける。


すると、土方は……口の片端だけを上げて、にやりと笑った。




「そりゃあ、最上級の褒め言葉だな」








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