幕末オオカミ

**



俺が島原の角屋に着いたのは、予定時刻より少し送れてからだった。



「なんじゃ沖田、遅かったのう」


「すみません、芹沢先生」


「駆けつけ一杯!ホレ、飲まんか!」


「いやいや、お酌は俺にさせてくださいよ」



芹沢は既に酔っていた。


それもそのはず。


芹沢派だけでなく、近藤派も彼に次々に酒をすすめていたからだ。


酩酊させれば、後の仕事が楽になるから……。



「総司、どこへ行ってた」


「土方さん、顔が怖いですよ。
別に、どこというほどのところではありません」


「……なら、いいけどよ」



幹部席から離れた土方さんが、俺にひそひそとはなしかけてきた。


俺は普段どおりに返す。



実は俺は、ここへ来る前、八木邸の周りをウロウロしていた。


あいつの様子が気になったから……。


しかしあいつ……楓は、八木邸から姿を見せなかった。


子供達と話す声だけを聞けば、何も変わったことはないみたいだ。



実を言えば……


隊士のほとんどが屯所にいないうちに、楓は脱走するんじゃないか、と思っていた。



< 213 / 490 >

この作品をシェア

pagetop