幕末オオカミ
「……何見てんだ?」
「べっつに。
牙がちゃんと引っ込んだか、確認してただけ」
「あー。たまに横から出てるもんなって、コラ」
総司は軽く、あたしの頭を小突いた。
こんなことができるようになったのは、進歩だと思う。
やっと女子といることに慣れてきたみたいだ。
っていうか……
あの接吻はなんだったんだよぉぉぉぉぉ!!?
と、ハッキリ聞けないあたしは、いったいどうしちゃったんだろう。
そのくせ、気づけば総司の事ばかり、目で追ってしまう。
青空みたいに広い、浅葱色の背中。
いくら人を斬っても濁らない、切れ長の瞳。
そして。
あたしに噛み付いた、牙を隠した熱い唇。
『嫌なら、よけろ』
あの囁くような低い声が、今でも耳に残ってる。
濡れた唇の熱も。
その柔らかさも。
狼化した総司に舌まで入れられた時よりはるかに、あたしの記憶に残っているのに。
どうしたもんかね……。
総司が何も言ってくれなきゃ、あたしもどうしようもない。