幕末オオカミ
「何で俺と同室じゃだめなのかな?」
横を歩く平助くんが、不満そうに言った。
ってかそれ、もう何百回も聞きましたから。
「土方副長の判断が正しい。
お前と同室にすれば、楓の貞操が危ない」
反対隣の斉藤先生が、ボソッと言った。
「もー、本人を前になんていう話をしてるんですか!
と言うか、早く処理しますよっ!」
今あたしたちは、秘密任務の真っ最中だ。
そう……
足元には、浅葱色の隊服を着た男が横たわっていた。
「バカだね……逃げられるわけなかったのに」
平助くんが手をあわせ、遺体を担いだ。
芹沢がいなくなってからというもの、副長の厳しすぎる武士道についていけなくなった隊士の脱走が、相次いだ。
中には、倒幕派……長州の間者が隊士として入り込んでいたこともあった。
あたしたち監察はそれを見つけ次第、局長に報告。
粛清するのは、副長助勤以下、新撰組隊士。
「あたしもずいぶん、鬼になったもんだ……」
芹沢を斬ることにあれだけ反対したのに。
今は、個人の事情を知ろうとすることはやめた。