幕末オオカミ
「知り合い……か?」
斉藤先生が警戒を解かないまま、あたしに話しかける。
「…………」
「そうそう。
あんたも武士の端くれなら、聞いた事ぐらいあるだろう?」
何も言えないあたしの代わりに、陽炎が答える。
「銀髪に、紫の瞳……忍の岡崎一族か」
「正解。
楓は純血じゃないからね、髪も目も黒いけど」
【岡崎一族】。
久しぶりに、その名を聞いた。
懐かしい、あたしの故郷。
あたしの一族の名だ。
伊賀や甲賀、風魔ほど有名ではないけれど、歴史の影で確実に暗躍している、忍の一族。
銀色の髪に紫の目はその象徴。
しかしそれが現れる人間は純血の一族の者だけ。
混血のあたしは、髪も目も生まれつき黒い。
「楓、俺と一緒にきてよ。あそこへ、帰ろう」
陽炎は薄くあたしに笑いかけた。
その顔は、残酷なほど美しかった。