幕末オオカミ
「楓、15年も村にいたんだから、わかるよね?
死んだことにするなら、鮮度を保った死体を持っていかなきゃ証拠にならない。
そのへんの町娘を殺して、代わりにしろってこと?」
「そんなこと……!」
「言えないよね。
楓は昔から優しかったもん。
そのせいで、忍としては二流だったけど」
「ぐっ……」
こいつ、どさくさにまぎれて余計なことを……
「俺の任務は、お前を生きたまま連れて帰ること。
これが何を意味するか、わかる?」
「陽炎……」
「失敗したら、俺の命がないってこと」
陽炎は、さらりと言ってのけた。
そうだ。
岡崎一族は、仕事に失敗した者を許さない。
人間とは思えないほどの迫害を、一家全員に与える。
それを恐れる忍達の任務成功率は、他の一族より高いと言われる。
「黙ってきてくれないと、そいつらだって巻き添え食うよ?
今から報告して、新撰組つぶそうか?
そんで、幹部は全員、江戸城で切腹!!」
「陽炎……っ!!」
あははははは、と陽炎の狂気じみた笑いが林に響く。