幕末オオカミ
「陽炎、お願いだから、あたしはとっくに山の中で死んでた、そういう事にして」
「だーから、無理だって。
星見(ほしみ)のババ様が、お前は生きてるって、そう言ってんだもん」
「くっそ、あのババア、まだ生きてやがったか……」
村には占い師がいる。
星で占をする【星見】のババ様の発言の威力は大きい。
「どうする?
大人しく来た方が、いいと思うけどな……」
「どうして……?
あたしはあそこで必要とされてなかったんだよ?
全く気に入られないっていうか、存在自体を無視されたような生活で……。
何で今さら、生きて戻らなきゃいけないの?」
「あー、気の毒にねえ。
結局お手つきにならなかったんだって?」
「陽炎!!」
斉藤先生の眉毛がぴくりと動く。
もう陽炎は、何も隠すつもりはないようだ。
ただ、あたしの反応を見て楽しんでいる……
そんな感じだった。
「それでも、変だと思わない?
一回もお手つきにならなかった、元忍のお前がどうして二年も置いてもらえたんだと思う?
大名や公家のお姫様でもないのにさ」
「え……っ?」
「最初から、お前の身体や世継ぎが目当てじゃなかったってことさ」