幕末オオカミ
ぽたぽたと落ちる涙を、ごしごしと腕でぬぐう。
頭の上で、大きな手がぽむぽむと音を立てた。
その温かさに、不安が溶けて流されていく。
「総司……あたし……」
「ん?」
「なんでも…ない……」
「……変なやつだな……」
総司が苦笑してくれた。
でも、あたしはその先を言えなかった。
ねえ。
本当はね。
『嫁にもらう』って、言ってくれた時。
泣くかと思ったんだよ。
心臓、止まるかと思ったんだ。
嬉しかったんだ。
あたしは、天下人の側室に戻るより、人狼のあんたの嫁になるほうが、よっぽど嬉しいんだ……。
ぬか喜びさせやがって。
ねえ。
あんただって、罪人だよ。
上様の側室のあたしの心を、いつのまにか、奪ったんだから。