幕末オオカミ


侍女が寝静まったのを、確認して……。


あたしは、押入れの戸をそっと開いた。


中から、小さな箱をとり出す。


紐を解き、ふたをはずせば……。



「……助かった。虫食いなーし」



その中から出てきたのは、黒い忍装束。


鉢金に、鎖帷子(クサリカタビラ)、手甲、足甲、苦無(くない)に手裏剣に火矢。


箱からは、奥入りする時に持ってきた忍用具が、次々に転がり出る。



あたしは手早く着物を脱ぎ、忍装束に袖を通した。


うん、やっぱこの方がいい。


髪は……いじってる時間ないか。


後頭部で一つに縛られた髪は、伸びっぱなしで少し重いけどしょうがない。



今回の任務は、逃亡。


身軽さが全てだから、これはいらないかな。


あたしは鎖帷子と、火矢以外を装束の中に隠し、


一歩、踏み出した。



この、女の牢獄のような。


【大奥】から……。










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