幕末オオカミ
空中で一回転して着地した総司は、腰の刀を邪魔そうに一瞥した。
彼は、かろうじて二足歩行ではあるものの、完全な獣の目をしている。
刀を捨てた方が、身軽になれていいかもしれない。
そう考えているようだった。
大きな怪我はしていなかったけど、その着物や髪の所々が焼け焦げている。
「ただ速いだけかよ、バケモノ」
陽炎が言い放つ。
バケモノ。
たしかにそうだ。
そうとしか、言いようがない。
あたしだって、最初はそう思った。
だけど。
そう言われるたびに、総司がどれだけ傷ついているか。
「バケモノじゃない……っ!」
気がつけば、怒りで握りしめた拳に爪が食い込んで、血を流していた。
陽炎、あんたはわかってない。
総司がどれほど、悩んで苦しんでいるか。
あたしが、総司を侮辱されて、どれほど悔しいか。
それは、幼なじみに対する情けを忘れるほどのもの……。
「もののけでも、他の何でもない!!
総司は総司だっ!!」
あたしは、声の限り叫んだ。