幕末オオカミ


「…………!!」



悲鳴もあげず……陽炎は、地面に崩れ落ちた。


総司に斬られたんだ。


総司はその背後に着地していた。


あたしはとうとう我慢が出来ず、駆け出す。


その後をついてくる三人の足音を聞きながら……。



「陽炎……っ!!」



うつぶせに倒れていた陽炎の背中には、見事な袈裟懸けの後が残っていた。


抱き起こせば、その胸はまだ、かすかに上下していた。



「楓……」



うっすらと目を開けた陽炎が、あたしの名を呼ぶ。



「楓、いつの間に猛獣使いになったの……」



少し笑っているような陽炎の声に振り向くと、長い爪が無残に折れた総司が、斉藤先生に正気に戻らされている。


その口からは、血が出ていた。


おそらく、牙でその爪を噛み砕いたんだろう。


右手はしっかりと、血のついた刀を握っていた。


あたしの声、届いたんだ……。


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