幕末オオカミ
「陽炎……ごめんね。
あたしは、帰れない……」
「そう、か……
あーあ、相手が上様だから、無理矢理あきらめて納得してたのに。
……まさか、バケモノ、ごときに、楓を……とられるなんてね……」
だんだん弱まる呼吸で、陽炎はそんな事を口にした。
「……陽炎……」
うぬぼれでなければ。
陽炎。
あんたは、あんたなりにあたしを想っててくれたんだね。
しめつけられたように痛い胸は、あたしの涙腺から涙を押し出させた。
「陽炎っ、ねえ。
あんたが言ってたのが本当なら、あたしの血を使えば助かるんじゃないの?」
「……ばかだな……怪我には、効かないんだよ……」
「そんな……」
みるみる土の色に変わっていく陽炎の顔が、涙でぼやけた。
ああ。
私怨はなかった。
本当は、死なないでほしいのに。
あたしは、あたしのわがままのせいで。
幼なじみを、死に追いやるのか。