幕末オオカミ
陽炎は、消えゆく声でそう言うと、ゆっくりとまぶたを閉じた。
「陽炎……」
す、とあたしの隣に影が降りた。
土方副長だ。
副長は簡単に、陽炎に手を合わせた。
ああ……
本当に、死んでしまった……
あたしのせいで……
力が抜けていく腕から、陽炎の亡骸が奪われる。
斉藤先生が、その身を抱えて立ち上がった。
きっとそれは、誰にも見つからないように秘密裏に処理されるんだろう。
「……総司、あとは俺達がやる。
お前はその小娘を頼む」
「え、副長、俺も処理班ですか?」
「空気を読め、平助」
「……はぁ……」
いつもと変わらない副長。
どこか不服そうな平助くん。
そして亡骸を抱えて無言で歩く斉藤先生を、あたしは幻のように見送った。
立ち上がれなかった。
声すら出なかった。
ただ、涙だけが、
あとからあとから、こぼれて落ちた。