幕末オオカミ
「ごめん……こんなになっちゃって……あたしのせいだ……」
命の右手が、傷ついてしまった。
これじゃ、いつもどうりの剣はしばらく振るえないだろう。
「平気だ。爪はすぐのびる」
「でも……」
「嬉しかったから、こんなのどうだっていいんだ」
「え?」
思わず振り返ると、総司は少しだけ腕をゆるめた。
そして、向かい合ったあたしを抱きしめなおす。
「……バケモノじゃないって、言ってくれた」
「…………」
「嬉しかった。本当に……」
総司の胸の鼓動が、くっついた耳から伝わる。
その音が、胸の痛みを癒していく気がした。
「なのに……俺は……」
「総司……」
顔を上げると、総司の口の端が切れているのが見えた。
「……あたしも、総司が剣をとってくれて、嬉しかった……」
「楓……」
「ごめんね。矛盾してるよね。
総司には勝ってほしかった。
絶対絶対、勝ってほしかった。
だけど、陽炎に死んで欲しいわけじゃなかったんだ……」