幕末オオカミ


涙はいまだ、ぽろぽろと溢れ出す。



「総司は悪くないよ。
あたしが、選んだんだ……」



陽炎より、アンタを。


新撰組を。


あたしは、選んだ。



「忍である以上、いつでも死ぬ覚悟はあったはず。
陽炎は一流の忍だもの」



自分に言い聞かせるように、あたしは言う。


見上げた総司は、また泣きそうな顔をしていた。



「……無理しなくていい」


「……してないよ……」


「いいから、泣け」



乱暴に頭を抱かれ、胸にくっつけられる。


背中が折れそうなくらい、総司はあたしを強く抱きしめた。



「お前のせいじゃない。
無理に引き止めた俺のせいだ」


「痛い……総司、気持ちは嬉しいけど、痛い」


「あぁ?あ、悪い……」



色んな意味で、呼吸困難になるから。


腕をゆるめた総司は、叱られた飼い犬の目をしていた。



「もう……痛みで涙がどっかにいったよ」



本当はさっき、涙も鼻水も総司の着物に吸収されたんだけど。




< 322 / 490 >

この作品をシェア

pagetop