幕末オオカミ
「女物なんて、ねぇぞ……
八木さんの奥方様に聞いてみるか」
「八木さん?」
「ここは前川邸。もとの住人は住んでいない。
八木さんはもう一つの宿所を貸してくれてる人。
なるべく迷惑かけたくないんだが……」
沖田はぶつぶつ言いながら、タンスをあさる。
「べつに、女物でなくてもいいよ」
「……あ、じゃあこれでいいか」
沖田が見つけたのは、何の変哲もない男物。
ちゃんと季節に合った、秋物の青い着物だ。
それに、白っぽい袴。
「着物はともかく……袴の大きさはどうだ」
「着てみる。
後向いててね」
あたしは物陰に隠れ、濡れた忍装束を脱ぐ。
途中何回も沖田の視線を確認するけど、こちらを向く気配はない。
沖田は銅像のように動かず、じっとしていた。
「兄上、大丈夫!
ばっちりだよ!」
着替えを終えて声をかけると、沖田はやっとこちらを振り返った。
そして、近藤先生が置いていった手ぬぐいをつかみ、あたしに近づいた。