幕末オオカミ


あたしが好きなものといえば。


じっと、目の前の大男を見る。


大男は何も気づかず、ううんとうなりながら、合言葉を考え中。


ばかだなぁ……。



「狼」


「ん?」


「『花』と『狼』でいいんじゃない?」


「……なんか、まんま俺たちみたいだけど……」


「そう?」



まあ、狼はわかるけど。


あたしが『花』ってことはないでしょう。


そんな思いが顔に出たのか、総司は付け足した。



「そうだろ。お前は、このむさくるしい屯所に咲く、一輪の花」


「ぶ……っ!!」


「てめ、なに笑ってんだよ」


「だって、総司の口からそんな言葉がでるとは……ぶぶぶ」


「あぁ?悪いかよ!」



総司はムッとして、あたしの肩を押す。


あたしはあっさりと、蔵の壁に縫い付けられた。


総司の、長い両手で……。



「……何よ」


「あんまり、なめるなよ」



低い声が蔵に響く。


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