幕末オオカミ


「……正直、死ぬまで言うつもりなかったんだけど」


「ええっ?」


「いや、言ったら本当に我慢きかなくなりそうだったから。

お前に受け入れられると思ってなかったし」



総司は片手で、首の後をかいた。



「芹沢が……最後に俺に言ったんだ。
後悔しないようにと」


「芹沢が?」


「何のことだか、あの時はわからなかった。

ただ、もののけである俺が、女を愛する資格なんかないと思ってた。

だから言えなかった」


「…………」



芹沢は……どんな思いで、総司に言葉を残したのだろう。


武士であり、もののけであるがゆえ、いつでも死ぬ覚悟はできていて。


それでも愛する人を守った、芹沢。



「……黙って見守ってるのが、一番いいのかと思ってた」


「総司……」


「でも、お前が脱走未遂したと土方さんに聞いたとき、違うなって思った」



総司の切れ長の目が、あたしを見つめる。


あたしはそれに吸い込まれそうになった。



「どうして、もっと近くにいてやらなかったんだろうと、思った。

そして、陽炎が死んで……

俺もお前も、誰も彼も、いつ死ぬかわからないなと実感した」



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