幕末オオカミ


陽炎……。


彼は忍であるがゆえ、自分の任務をまっとうできずに死んだ。


武士も忍も、一緒だ。


いつ死ぬかわからない……。


常に危険に身を置く新撰組なら、なおのこと。



「……ここからは、俺のわがままだけど。
いつ死ぬかわからないなら、なるべくそばにいたいと思った」


「……総司……わがままなんかじゃないよ。
あたし、そばにいてって、言ったもん。
今も、そう思ってるよ?」


「ありがとう。でも……」



総司は少し、寂しそうな顔をした。


その長い節くれだった指が、あたしの頬をなでる。


その無骨な腕からは想像できないほど、優しく。



「……お互い何も知らなければ、引きずるものもないだろ?」


「…………」


「江戸の女達とお前は違う。
軽蔑してもいい。
俺が大事に思うのは、お前だけだ」



そういうと彼は、軽く、触れるだけの口付けをした。


それは次第に、甘く溶かされるようなものに変わっていく。


体の力が抜け、立っていられなくなりそうだった。


< 335 / 490 >

この作品をシェア

pagetop