幕末オオカミ
二人分の涙が涸れた頃。
夕日はとっくに、月にその地位を明け渡していた。
「総司……あたしね、明日任務があるの。すごく危険な任務。
失敗したら、殺されるか切腹、どちらかなんだ」
「……なんだそれ。聞いてねぇぞ、俺は」
「だって、極秘任務だもん」
結局あたしの着物に手をかけることのなかった総司は、鬼のような顔であたしをにらんだ。
きっと、心配してくれているんだろう。
「あたしの方が、先に死んだりして」
「やめてくれよ」
「……ねえ、約束して」
「あぁ?」
「あたしが無事に戻ったら……もう、離れるなんて言わないでね?」
切れ長の目が、少しだけ見開く。
そして、眉の間にシワをよせたまま、総司は言った。
「わかったよ。しつこいやつだな」
そして、口の片端を上げて笑う。
その顔は、どこか土方副長を彷彿とさせた。