幕末オオカミ
2.あんた誰
あたしは、走る。
この2年ずっと暇だったから、ここの敷地は嫌というほど歩き回った。
どこに見張りがいるか、それくらいは熟知している……
はずだったのに。
「曲者だ!!」
おわああああ!!
あっさり見つかっちゃったよ!!
くっそー!!
見張りの弓矢が飛んでくる。
あたしはそれを避けながら、必死で塀の上に上がった。
使ったカギ爪と縄を放り出すと、外堀にボチャンと、音としぶきを上げて落ちた。
ここが、最後の難関。
「……とりゃーっ!!」
あたしは外堀の向こうに向かって、全力で跳躍した。
下手すりゃ池ポチャで、捕まって死ぬ。
「おっとっと、っと……」
何とかつま先が堀の向こうに着地。
「よしっ!」
毎日こっそり訓練をしていたおかげで、筋力は衰えてなかったみたい。
振り返らず、一目散で町の方へ走る。
あたしの目は、闇夜に慣れてる。
大丈夫。
絶対、逃げきれるはず……!!