幕末オオカミ
出かける直前、山南先生がくれた簪だ。
あたしはそれを、接吻に夢中になっている桝屋の首の後に……
軽く、当てた。
「────っ……?」
違和感があったのか、桝屋は体を離し、あたしをにらむ。
しかし、その瞳はすぐに、トロンとして……
力が抜けた身体が、容赦なくあたしに覆いかぶさった。
「チッ!!」
あたしはすぐにそこから脱出する。
うつぶせ寝の格好になった桝屋は、すやすやと規則的な寝息を立てていた。
「山南先生、ありがとう……!」
あたしは簪にお礼を言う。
あの時山南先生は、こう耳打ちしたのだ。
『先に、強力な眠り薬を仕込んである。
いざという時は、飾りを取って、その隙間に差し込むように、頭を押すんだ。
針が出るから、くれぐれも相手の動向に注意しながらやるんだよ』