幕末オオカミ
「おっと!」
永倉先生は目を見開いて、自分の手と離れたあたしを交互に見た。
「なかなか速いじゃないか」
原田先生は感心したように、口笛を吹く。
「楓くん、それをよこすんや」
優しく言ったのは、いつの間にか隣にいた山崎監察だった。
手裏剣の一種で、槍の先のような形をした苦無を、指でつまんで、あたしから取り上げた。
「あ……っ!」
「全く手入れされてへん。
かなり、忍として働かなかった期間があるみたいやな。
それでも、その速さを保っているんは、大したもんや」
見えなかった……!
今まで、苦無をとられたことなんか、なかったのに……!
呆然としていると、山崎監察は優しい顔のまま、あたしに苦無を返却した。