幕末オオカミ
いや、民家……なのかな。
あたしは跳躍して塀につかまり、ひょいと顔をのぞかせる。
「あっちが母屋で、あっちが離れ……?
道場っぽいものに、蔵まで……」
目の良い事がとりえのあたし。
「立派なお屋敷じゃん!
これは期待できそう!」
そして、食い意地が人一倍のあたし……。
「行くか!!」
きっとたくさん、食料や着物があるはず。
そのへんの長屋を狙うより、よっぽど忍びがいがありそうだ。
あたしは、ひょいと塀を乗り越えた。
「おぉ……」
ふんわふんわと風に乗って、鼻に届いたのは。
「おーこーめー……」
玄米と麦がまざった、米の匂いだった。
あたしはそれに誘われて、ぬき足、さし足、忍び足で、屋敷の中に入っていった……。