幕末オオカミ
3. もののけの接吻
タヌキもキツネも、昼間はちらっと見ただけだしね。
沖田の野郎の一方的な評価じゃ、芹沢一派の本当の人となりはわからないし。
この目で確かめたもの以外は、簡単には信じない。
忍とはそういうもんだ。
なんちゃって、本当はただの興味本位だったりする。
「よっ……」
あたしは芹沢たちのいる部屋の壁に、外から耳をあてる。
「もっと酒をもって来ぬか!」
新見の甲高い声が聞こえる。
あの人たち、また飲んでるのか……
次に聞こえてきたのは、芹沢の大きな声だった。
「おぬし、美しいのぅ。こちらへ寄れ」
おぅ……やっぱり、女の人がいたか。
そりゃお茶屋だから、芸妓や島原の女性を呼ぶのは当然だけど……色っぽい展開になってしまうと、気まずいなあ。
「……?」
引き続き、耳をこらす。
あたしはそこで、異変に気づいた。
芹沢と新見の声しか、聞こえない。
妓(オンナ)の声や歌、三味線の音なんかが聞こえてきてもいいはずなのに……何やってるんだろう?
あたしは興味を押さえきれず、格子の間から、部屋の中を覗いた。
そこで見たのは……信じられない、光景だった。