幕末オオカミ
「おい!!」
男がひざをつき、倒れたあたしを起こし……。
どん、と背中を叩いた。
「ぐはっ!!」
あたしの口から、詰まっていたにぎり飯の欠片が飛び出す。
「きったね……」
男はそれを見て、眉をひそめた。
息が戻ったあたしは、今度こそ逃げようとするが……。
男に、がしりと腕を捕まえられた。
ぶんぶんと振ってみるが、びくともしない。
「お前、何者だ」
男は低い声で問う。
その顔は浅黒く、目は少し離れているけど……。
すっきりとした一重まぶたと、高い鼻を持つ美丈夫だった。
背がやけに高い。
今まで見た誰よりも、高い。
すでに元服を終えた年齢に見えるのに、前髪はだらしなくのびていた。
「あんたこそ、誰。
自分から名乗るのが男ってもんでしょ」
あたしは言い返す。
すると男はムッとしたようだった。