情炎の焔~危険な戦国軍師~
「♪満月の夜に君想う。わが身、星となり月のようなあなたのそばに寄り添いたいと」


その夜、私は縁側で月を眺めながら「夜桜」という曲を1人で歌っていた。


「♪宵闇の中で、夜陰の中で夜毎に夜伽を繰り返す」


誰も廊下を通らないのをいいことに歌い続ける。


「♪あるいは桜になりたい。桜となり、あなたという風に吹かれ、舞い踊り、乱れて」


そうやって歌っていれば、あの雪の日のように左近様が来てくれるような気がした。


しかし、彼は来ない。


まだ離れてほんの2、3日なのに恋しい気持ちが心の中に渦巻く。


「♪春は桜となり、夏は蛍となり、秋は紅葉となり、冬は雪華になりたい。精一杯咲き、光り、燃え、また咲いた後はあなたの肩の上で人知れず静かに消えていきたい。そう願う春の夜。桜舞うこの夜」


するとふいに左近様の言葉が蘇った。


「桜も花火も俺からしてみれば同じです。咲いたと思えばすぐ散ってしまう。儚いですよね。まるで俺達武士の命のようだ」


左近様が関ヶ原で散ってしまう時がもうすぐやって来る。


私はそれを止めたくて佐和山城に置かせてもらっている。


なのに、不安が込み上げる。


大坂という場所で今、彼は何をし、何を見、何を思っているのだろう。


指示を出すと言っていたが、例えば敵襲があって怪我などしていないだろうか。


心配になってしまう。


早くあの太陽のような笑顔を見たい。


澄んではいないけど、芯の強さを感じさせるあの声が聞きたい。


今すぐ、会いたい。


「会いたいです。左近様…」


私の切ない呟きを、闇に浮かぶ月だけが聞いていた。
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