情炎の焔~危険な戦国軍師~
一方、大坂のとある屋敷の一室には男性と女性が1人ずついた。


女性は長い間、黙祷しており、家臣らしき男性はそれをじっと待っていた。


「少斎」


祈祷を終えた女性が目を開き、男性の名前を呼ぶ。


「はっ」


「話は聞いておりますね?」


家臣に凛としたまなざしを向ける彼女の胸には十字架が輝いている。


「はい」


「大坂の大名達の妻子が次々に石田殿の人質にとられていると聞きます。しかし私(わたくし)は忠興様に迷惑をかけるわけにはいきません」


「…」


「切支丹は自害を禁じられております。さあ、少斎」


「っ…」


少斎と呼ばれた男性はつらそうに薙刀(なぎなた)を握りしめる。


「では、ご覚悟を」


少斎が薙刀を振り上げた。


女性はそっと目を閉じる。


「さらばです。忠興様…」


そして薙刀が女性を貫き、その少斎も前もって命じられていた通り屋敷に火を放ち、脇差し刀で自害した。


あっという間に屋敷を飲み込んだ炎は、まるでカトリック教で死者が天国に入る前にその人の罪を浄化するという煉獄(れんごく)のようだった。


火は闇をあかあかと照らし、何刻も燃え尽きなかったという。


まるで基督教に殉じたあの女性の凄絶な意志を表しているかのように…。
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