情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-


友衣さんにあれこれと慰めの言葉をかけてから、俺は殿のいる部屋に行った。


「左近か」


殿は気まずそうな顔でこちらを見る。


「友衣さん、かなり傷ついてましたよ」


開口一番に放ったその言葉に、細い肩がぴくりと動く。


「左近。オレはどうも口が悪い」


「今さらどうしました」


思わず苦笑した。


かれこれ15年の付き合いなのだ、それくらい知っている。


「そして自尊心が高い。オレはいつも自分が否定されるようなことを言われると、それよりも遥かに厳しい言葉で着実に打ち返してしまう」


「ええ」


殿のそんな本質はわかっていた。


さっきだって友衣さんに目障りだと言ったが、あれも決して本心ではないはず。


「おまけに不器用だ。どう言えば人が喜んでくれるのかわからず、不用意に傷つける」


「でしょうな」


正直にそう言うと今度は殿が苦笑した。


「お前にはすでにわかっていたか」


「当たり前ですよ。何年一緒にいるとお思いで?」


殿はふう、とため息をついて言った。


「友衣には悪いことをしたな」


「そうでしょう。彼女は殿を心配してああ言ったんですよ」


「だが、オレはオレの信念を曲げることは出来ない」


「殿っ。この期に及んでまだそう言いますか」


「ふ、相変わらず叔父貴のような物言いだな、左近」


頭をかきながら片目をつぶり、上目遣いでこちらを見、澄ました少年のように笑っている。


「真面目に言ってるんですよ」


必死にそう言うが聞いてはくれない。


殿はご自身を過信しすぎだ。


しかし、殿の考えを真っ正面から覆せる弁論が出来る能力は俺にはない。


俺は迫り来る戦の気配、それも嫌な予感だけしかしなかった。


もしかしたら次の戦で西軍は敗北し、自分の命はおろか大切な人々まで失ってしまうのではないか、と。
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