情炎の焔~危険な戦国軍師~
その後、沢渡へ行った三成様が戻ってきたのは、西軍の先峰が合渡川を渡ってきた敵の黒田長政・田中吉政軍と衝突し、西軍敗走の知らせを受け取ったからであった。


また、要塞である3つの城のうち最大であったはずの岐阜城も落ちてしまったという。


(田中吉政といえば確か、関ヶ原から逃亡した三成様を捕らえた張本人…)


怒りがふつふつとわいてくる。


「殿っ」


三成様の姿を見つけた左近様が走ってくる。


「どうした」


「岐阜城を落とした敵軍は疲労困憊の模様。今から清洲へ出兵し、その後で伊勢に行かせた軍と合流すればなんとかなるかもしれません」


確かに、今みたいに兵をあちこちに小出しにしていたら各地で叩かれるだけだ。


それに今、この状況を打開するためには、とにかくなんでもやってみるべきかもしれない。


しかし、三成様は首を縦に振らなかった。


「オレにはオレの考えがある。少し待ってほしい」


「待っていたら敵も回復してしまいます。今しかないんです」


その後も左近様は色々と力説したが、結局その案は採用されなかった。


「三成様は迷走しています」


私はまた口を挟む。


「なぜ、自分の信じた通りにしか物事を考えないのです。現に3つの要塞となった城はみな落とされてしまったではありませんか。もたもたしていたらすべてが水の泡ですよ」


三成様の首を縦に振らせるような権謀術数など思いつける能力がないので、とにかく彼を煽り立てた。


ここで背中を押せれば戦況は変わるかも。


だから、この前みたいに怒られるのを覚悟で言ったのだ。


三成様はしばらく私をじっと見た。


そして口を開く。


「お前はオレを心配して、そんなに必死になってくれるのだな」
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