情炎の焔~危険な戦国軍師~
「俺は殿の考えていることがわかりません」


あの後、大垣城内の一室で2人で話していると、左近様が沈んだ顔でそう言った。


「私もです」


「あの火はおおかた敵が陣中で焚いたものか、もしくは戦のために民家を焼いたんでしょう。佐和山城を狙ったものとは思えない」


「そうですよね」


「こんな夜に陣を出ていってまで、あの城を捨てられないのだろうか」


それを聞いて、ふいに私はとある話を思い出した。


三成様は、もし関ヶ原の戦いに敗れたら佐和山城を本拠地として再び戦うつもりであったという説を。


それほどあの城を重要視しているのなら、心配して駆け出したくなる気持ちも少しはわかる。


でも仮にも大軍を指揮する立場なのになぜ?


奇襲案を拒否したと思えば、佐和山城のために飛び出していくなんて、三成様って慎重なんだかそうでないんだかわからない。


今まで一緒に過ごしてきたのに。


少しは彼のことを理解しているつもりだったのに。


「なんで三成様は奇襲を避けるんでしょう」


そう言うと、左近様が再び口を開く。


「正々堂々、大戦を仕掛けた上で家康殿を倒してこそ真の勝利。そう考えているんですよ、殿は」


「真面目ですね。真面目すぎますね。私だったら今からでも夜襲に行きます」


以前、左近様も吉継様も言っていた。


三成様は清廉すぎる、潔癖すぎるって。


だからこそ奇襲のような、ある意味ずるい方法を好まないのだろうか。


「無謀すぎますよ…」


なおも私の口は止まらなかった。
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