情炎の焔~危険な戦国軍師~
「勘違いするな。貴様を助けようとしたわけではない。ただこの賊が胸糞悪かっただけだ」


相変わらず冷たい視線と声。


「でもなぜあなたがここに?」


「貴様をつけていた。捕縛するためにな」


穏やかではないことを聞き、思わず身構える。


「ほう、この服部半蔵に勝てると思うのか」


私は放り出されていた上着の傍らにあった自分の脇差し刀を抜く。


「面白い」


半蔵さんがニヤリと笑った瞬間。


「え!?」


姿が消えていた。


「ここだ」


ガッ


「うっ!」


ふいに背後から声がしたかと思うと、殴り飛ばされる。


「貴様は徳川の家紋の付いた品を持っていたくせに、伏見ではずっと三成についていたな」


私が体勢を整え、再び刀を構えると半蔵さんは静かに語り始めた。


「どういうわけだ?答えろ」


それには答えず、黙って睨みつける。


「ふん、まあ良い。あいにく前回のように邪魔者はいない。心置きなく貴様をいたぶることが出来る」


その氷の刃のような冷たい微笑に、私は先程感じたのよりもっと恐ろしい思いがした。


急にドン、と突き飛ばされ床に叩きつけられる。


「貴様は隙が多いな」


私に馬乗りになった半蔵さんが、首筋にあの時のように鎖鎌を突き付けた。


「…」


込み上げる恐怖に耐えるようにぎゅっと唇をかみしめる。


「その怯えた表情…いい顔だ」


私とは対照的に、半蔵さんは実に愉快そうだ。


ああ。


やはり左近様の言うことを聞かずに飛び出した自分が悪いんだ。


どうか私を許して下さい。


私は覚悟を決め、ぎゅっと目をつぶる。


そして。


「だあっ!」
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