情炎の焔~危険な戦国軍師~
私は即座にかぶりを振った。


「そんな話、信じない。それに、なぜ私を徳川に?」


「貴様は侍女のくせに三成と近しいようだな」


そうか。


きっと私を通じて石田方の情報を手に入れたいんだ。


「さあ、こっちは大真面目で提案しているんだが?」


「あんたなんか信じないから」


私が強気に出ると、半蔵さんはフンと鼻で笑った。


「言っておくが罠の場所は私しか知らないはずだ。つまり、貴様が頷かない限りあの者は永遠に罠の中だ」


「脅す気?」


「そうだ」


「卑怯者!」


私が怒っても相手には通じない。


怒ろうがわめき立てようが関係ないって感じ。


「さて、どうする」


徳川には行きたくない。


三成様達を助けるために私は仕えている。


歴史を変えるために今まで戦ってきた。


でも。


「それよりも、あんたが無事で何よりです」


「あんたは俺だけを見ていればいい」


「もう今夜は離したくありません」


左近様と紡いできた、たくさんの思い出が蘇る。


そのひとつひとつが愛しくてかけがえのないもの。


彼を失いたくない。


いや、失わせない。


三成様にとっても大切なあの人はこんなところで散ってはいけないの!


左近様の命が助かるなら、私は…。


「左近様、ごめんなさい…」


決断の苦しさに耐えながら声をしぼり出す。


「ほう、覚悟が決まったようだな」


「ええ。私は…」
< 165 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop