情炎の焔~危険な戦国軍師~
城に戻って、私は左近様の怪我の手当てをした。


逞しい腕にも足にも痛々しい傷が刻まれている。


正直、見るのもつらい。


「あんたにこうしてもらうのも悪くないですね。まさしく怪我の功名」


左近様は軽口を叩いたが、ふと私の様子に気付いて聞いてきた。


「あれ、震えてます?」


「だって左近様は私のためにこんな怪我を」


そう思うと悲しみが込み上げてくる。


「気にしないで下さいよ。深い傷はないですし。まあ、俺の腕の中でならいくらでも震えていいですが」


「え、どういう意味ですか」


「さあ」


顔を上げると、つかみどころのない笑いが浮かんでいる。


「ほら、じっとしていて下さい」


私は佐和山城から持ってきたキャリーバッグから絆創膏を取り出した。


そしてそれを左近様の口元の傷に合わせて貼り付ける。


「これは?」


「ばんそうこうっていう、傷を治すものなんです。ちなみに漢字で書くと」


そう言って手帳に「絆創膏」と書いてみせた。


直後、この時代に活字がないと気付き口頭で付け足す。


「まあ、要は絆を創る…膏って書きます」


「絆を創る、か。素敵な名前ですね」


左近様は口元の絆創膏に触れ、微笑んだ。


「言われてみればそうですよね」


なんで今まで気付かなかったんだろう。


「じゃ、これは俺と友衣さんの絆の印ってことですか?」


「そういうことにしておいて下さい」


思わぬことを言われてなんだか照れてしまった私は、笑顔を見せながらそう答える。


「じゃあ一生付けてます」


「あ、それはダメですよ。衛生的に良くありませんから」


「そうなんですか」


いつも大人なのに、急に子供のように凹んでいるのがおかしくて笑ってしまう。


「傷が治るまで毎日貼ってあげますから」


「傷が治ったら?」


「私と左近様の絆はこの布1枚だけで表せるものではありません。傷が治って絆創膏が必要なくなった後もずっと続いていきます。そうでしょ?」


すると左近様は一瞬ハッとしたような顔をした後、満足そうににっこり笑って頷いてくれた。


そしてその日の夜。


ようやく三成様が帰って来た。
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