情炎の焔~危険な戦国軍師~
「お帰りなさい」


左近様がにこやかに言う。


「ただいま帰った」


数日ぶりに会う三成様は相変わらずクールだ。


「遅かったですね」


今度は私が言う。


「友衣か。何か変わったことはあったか?」


「もう大変だったんですよ。賊には出くわすし、半蔵さんには2回も襲われるし」


「相変わらずの襲われ癖だな」


こんな時にまで皮肉を言われた。


「襲われ癖って」


そんな日本語あるの?


「それで?」


ふいに三成様が言ってくる。


「それで?って」


「大丈夫だったのか?」


「はい。左近様が助けてくれました」


「そうか。すまぬな、左近」


「いえいえ。ところでなぜ遅かったんです?」


「いや、佐和山の者達が浮ついているものだからあれこれ指図してきた」


「浮ついているのは殿の方ですよ」


左近様がたしなめるように言う。


まるで親みたいだ。


「そうですよ。ダメじゃないですか。大垣城内でも偉い方の人がうかつに陣を捨てて城を出て行っちゃ」


私も加勢する。


しかし、三成様は薄く笑うだけだ。


「お前も左近に味方するのか。相変わらず仲の良い奴らだな」


「三成様、ふざけないで下さい。私は真面目に言ってるんですよ」


「別にふざけたつもりはないが」


三成様の顔はまるで森の奥深くにある湖のように澄んでいる。


(のれんに腕押し、か)


冗談で言っているのではないとわかり、私はそんなことわざを思い浮かべていた。
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