情炎の焔~危険な戦国軍師~
「あー、うらやましいな。友衣は」


夜、仕事をしていると侍女仲間(そんな言葉あるのか謎だけど)のひなたさんがぼやいた。


「な、何が?」


「昼間、また左近様に口説かれてたでしょ。侍女の間では専らの噂よ」


理由はわからないが、左近様は私と同い年くらいかそれより下の年頃の娘さん達に騒がれるような人であった。


三成様は中性的な感じで肌が白く、体も華奢で現代風に言えばクールビューティな都会派のイケメンなのだが、左近様はむしろ少し日に焼けた肌や逞しい体つきや頬の向こう傷が印象的で、ワイルドな男らしさを持っている。


「嫌だなあ。あれ、からかわれてるだけだよ」


私は笑うが彼女はこう言った。


「でもずいぶんデレデレしてたじゃない」


「や、だって私は彼氏いないし?あんなこと言われたら刺激強すぎるっていうか」


本当のことなのに、なんだか言い訳みたくなっている気がする。


なんて思うけど、胸の奥がヒーターみたいにどんどん熱くなってきた。


「でも、どちらにしろあたし達は無理よ」


いきなり哀愁がかった顔になるひなたさん。


「どうして?」


「彼は今、葵とよろしくしてるみたいだから」


「え…」


葵さんもやはり侍女の1人だ。


私は危うく手にしていた食器を落とすところだった。


わかっていた。


私にかけてくれる言葉は社交辞令とまではいかなくても、愛ゆえのものではないということ。


だけど、胸がギュッと詰まった。


「だったらいっそのこと優しくしてくれなきゃいいのに。思わせぶりなことも言ってくれなくていいのに」


悲しみがじわじわと心を浸蝕し始め、肩がわなわなと震える。


「誑しなんて…左近様なんて大嫌い!」


今はひなたさんしかいないのを良いことに思いきり怒鳴ってやった。


しかし、気配を感じて振り向くと…。


「!」


部屋の入口に立っていたのは沈んだ表情の左近様本人だった。


「友衣さん…」


つらそうな顔で左近様は足早に去っていった。


「友衣」


気まずそうにひなたさんが声をかけてくるが私は強気に言う。


「いいのいいの。どうせならあれくらい言わなきゃ」


本当は、すごく後悔しているくせに。
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