情炎の焔~危険な戦国軍師~
そして夜になっても雷雨はひどいままであった。


「やっぱり怖いですか?」


隣で寝そべっていた左近様が聞いてくる。


実は恥を忍んで彼に、雷が怖いから一緒に寝てくれと頼んだのだった。


雷にトラウマがあるわけではないが、どうも1人でいると自分に落雷するような錯覚に陥ってしまうのだ。


ああ、21歳にもなって恥ずかしい。


「左近様がいてくれるから大丈夫です」


「それなら良かった。それにしても、あんたはずいぶん無防備ですね」


「?」


「ただでさえ隙が多いのに、こんな危ない男に添い寝を頼むなんて」


「え、いや、あの…」


思ってもいなかったことを言われた上に、色香の漂う笑みを浮かべられてどぎまぎしてしまう。


「ふっ、嘘です。寝込みを襲うなんて卑怯な真似はしませんよ」


「本当ですか?」


「まあでも、あんたの可愛い寝顔を見たらどうなるかわかりませんが」


「な、なんて無責任な。っていうか起きてたら普通に襲うんですか」


「さあ」


「はあ。余計寝れそうにないや」


私はわざと大げさにため息をついてみせた。


「はっはっはっ。本当にこういう冗談には弱いですね」


左近様はそんなのお構いなしのようだ。


「あのですね、左近様の冗談は刺激が強すぎるんです」


「これくらい普通ですよ。あんたが純粋すぎるんじゃないですかね」


まったく、どっちが普通なんだか。


しかし、ふと思った。


私を恥ずかしがらせてからかうのも。


畳み掛けるようなアブない冗談も。


もしかして私の意識を雷雨から遠ざけるために?


私は思わず左近様をじっと見た。


「どうしました?」


当の本人はいきなり顔を見られてきょとんとしている。


その顔が小動物みたいでつい笑ってしまった。


「いやだ、左近様と小動物って奇妙な組み合わせ。おっかしーい」


自分で言って1人でウケてしまう。


「小動物って何の話ですか?」


「ふふ、なんでもありません」


「まあ、あんたが楽しそうで何よりですが」


そうやっているうちに気持ちがほぐれた私は、いつのまにか眠りの世界に落ちていた。


「やれやれ、今度は俺が眠れそうもないな」


左近様がそう言って苦笑していたのを、私は知らなかった。
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