情炎の焔~危険な戦国軍師~
「は、はい」


慌てて返事をして起き上がり、障子を開ける。


すると左近様が何かをお盆に乗せて持って入ってきた。


「いやあ、友衣さん。今日はずいぶん頑張ってたでしょう?」


問わず語りに左近様が笑顔で話し出す。


「だからごほうびに買ってきたんですよ。城下で評判の茶屋、名月庵の団子を」


そこで急に言葉が止まった。


「友衣さん、どうしたんです?」


「何がですか?」


「またそんな珍妙な格好して」


「こっちの方が楽なので着替えました」


「そうですか」


なぜか眩しそうに私を見た後、左近様は座り、団子とお茶を渡してくれた。


「ありがとうございます。いただきます!」


名月庵の団子を串ごと取り、1つ口に入れる。


お米特有の香りと優しい甘みがいっぱいに広がった。


「おいしい!」


「それは良かった」


左近様は柔らかく笑う。


「左近様は食べないんですか?」


「あんたのためということで買ってきたんでね」


「あー、そんな固いこと言わないで一緒に食べましょうよ。1人より2人で食べた方がおいしいですって」


そう言って私は団子を1串、彼に渡した。


「では遠慮なく」


頷き、微笑みを浮かべながら食べる様子を見て自然と私の口もほころぶ。


「これ、縁側で食べた方が良かったかな」


ふとそんなことを考え、呟いた。


「なぜです?」


「月見団子って風情があるじゃないですか」


「なかなか風流なことを考えるんですね」


クスッと笑うその顔には嫌味がない。


しかし、次の瞬間には真面目な顔になっていた。


「でも残念ながら、雲行きが怪しかったんですよ」


「じゃあ、一雨来ますかね。昨日みたいに雷雨になったりして」


「そうなったらまた添い寝した方がいいですか?」


「い、いえ」


ぶんぶんと首を振る私を、左近様は面白そうに見ていた。
< 194 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop