情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド友衣-


「隙あり!」


その声にハッとした時は遅かった。


相手の竹刀が喉元に突き付けられる。


「友衣、お前これで10連敗だぞ。どうした?らしくもないな」


平助さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「いえ、なんでもないです」


その視線から逃れるように私はそそくさとその場を去った。


昨夜の出来事がまだ後を引いている。


あの後、悩んだ挙げ句謝りに行こうと左近様の部屋を訪れた。


しかしいざ障子越しに「失礼します」と声をかけようとした時…。


「ああっ、左近様ぁっ」


中から聞こえてきたのは葵さんの聞いたこともない甘い声。


私はどうにも出来ず、虚しく侍女達が詰める部屋に帰るしかなかった。


「…」


また思い出して私はその場に立ち尽くした。


あの人に合わせる顔がない。


「友衣」


いきなり呼ばれて驚きながら振り向くと、そこにいたのは三成様だ。


「お前、訓練に力が入っていないようだな。平助が心配していた」


「それは…」


「何があったか知らぬが、訓練に私情を持ち込むのは禁物だ」


「申し訳ありません」


ただ注意されただけなのにひどく落ち込んでしまう。


「気を抜くな。訓練を怠るな。この時世、いつ戦になってもおかしくないのだ」


三成様の厳しい言葉と視線がやけに痛い。


「はい」


ふと、顔を上げると三成様の後ろを横切っていく左近様と視線が合う。


いつもなら微笑んで手を軽く上げてくれるのだが、今日は見なかったふりをして行ってしまった。


「おい、聞いているのか?!」


目の前の三成様が珍しくいきなり怒鳴る。


「はい。聞いております。本当に申し訳ありませんでした」


それだけ言って私はまた逃げた。


「お前のためを思って言ってるのだぞ…バカ」


その三成様の呟きを聞き取ることは出来なかった。
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