情炎の焔~危険な戦国軍師~
「気を使わせてしまいましたね。俺が愚痴を言ったばかりに」


反省するような顔を見せられ、そんなつもりなどなかった私は慌てる。


「いや、あの」


「だが、こうして素直に心中を打ち明けられるのはあんたしかいないんです。堪忍して下さいね」


「いいえ。私でいいならいつでも聞くって言ったのは私自身ですから」


あれは確か佐和山城にいた頃で、左近様が珍しく酔っ払った時だった。


「友衣さん、ありがとう」


「へっ?」


いきなり心当たりのないことを言われ、間抜けな声を出してしまった。


「そばにいてくれて」


「…」


月明かりのようなその優しい笑顔にドキドキして何も言えなくなってしまう。


左近様は続ける。


「笑顔にしようだとか助けようだとか、無理に考えなくていい。言ったでしょう?」


今度は彼が私の両肩に手を起き、真剣な顔で口を開いた。


「あんたは俺だけを見ていればいいって」


侍女達の黄色い歓声を浴びる左近様を見て、小さな嫉妬心を燃やした時の記憶が蘇る。


「俺だけを見て、隣にいてくれさえすればいい。それが幸せなんですから、これ以上は望みませんよ。もちろん、俺を思ってしてくれるっていう気持ちは嬉しいですがね」


ふわりと咲く微笑みに胸が温かくなった。


「また、左近様に救われましたね」


佐和山城にいた時も、今も左近様は私の心を優しく癒してくれる。


「左近様。昨日はあなたが冗談を言う度に心が揺らされていたから、惹かれていったのかもって言いました。でも気付いたんです。私は何より、あなたの優しさが好きだったんだって」


「優しさ?」


本人は不思議そうに目をぱちぱちさせている。


「はい。単なる優しさじゃない。愛のある優しさや気遣いに惹かれたんです。それはいつも私の心をいたわり、癒し、包んでくれる」


その直後、自分の言ったことがかなり恥ずかしいものに思えてきた。


「あはっ。何言ってるんでしょうね、私。やだ、もう」


「あの」


「あー、いや、嘘ではないんです。でも忘れて下さいね。恥ずかしいですから」


そう笑ってごまかした時…。
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