情炎の焔~危険な戦国軍師~
「友衣さん」


そう聞こえたと思うと、畳の上に押し倒されていた。


「あんたはどれだけ俺の心を乱せば気が済むんですっ…」


耳に流し込まれる声は苦しげで、私は混乱してしまう。


「その笑顔も言葉もいちいち切ない気持ちにさせる」


「え、え?」


「友衣さんは俺を優しいと言ったが、あんただって俺を守りたいと言ってくれた。そして、誰よりも心配してくれた」


「そんな」


打算など何もない気持ちをそんな風に言われ、嬉しいけれども少し戸惑う。


「あんたの優しさに触れるたび、どれほど心が乱されてきたか」


「左近様…」


かける言葉が見つからず、つい名前を呼んでしまう。


「おまけに男の前でそんなに足を出して」


「っ!」


Tシャツとショートパンツの上にいつもの着物を羽織るという格好であることをすっかり忘れていた。


現代ではショートパンツなんて普通の服装なのだが、こんなことを言われて急に自分の服装が恥ずかしくなる。


その気持ちを隠したくて話を無理に服装から逸らした。


「左近様ってやっぱりいやらしいんですね」


「ふっ。そんなことを言って煽るんですか」


彼は挑発的な笑みを浮かべている。


「煽ってないです」


「ほう、では無意識ということですか。ますます質(たち)が悪い」


そして抗議する暇を与えまいとでも言うように唇に唇が重ねられた。


「…」


早くもムードに酔ってしまい、ぼんやりと左近様を見上げると、彼はなまめかしく微笑んでいる。


「そんな潤んだ目で見上げても煽情するだけだってこと、友衣さんは知らないんでしょうね」


「左近様、お疲れなんですね。だから今、そんな変な気分になっているんでしょう?」


なんとなく私も挑発的になってしまう。


「ふっ、言いますな。まあ、あんただからこそですがね。かく言うあんたもそうじゃないですか?口づけだけでそんなに悩ましい顔をして」


吸い込まれそうな蠱惑的な目に逆らえず、つい頷く。


「他の男にはそんな顔、見せてないでしょうね?」


「もちろんです。意識しているわけではないので、なんとも言えませんが」


バカ正直に言うと左近様は吹き出した。


「どこまで正直なんです。見せてたら許しませんからね」


再び唇を奪われる。


たとえこの恋がどんな運命であろうと、一緒にいられる今を大切にしたい。
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