情炎の焔~危険な戦国軍師~
「月明かりの下で友衣さんが乱れる」


左近様が恍惚とした表情でため息まじりに言う。


「綺麗すぎて、枕絵にでもして取っておきたいくらいです」


私の存在を確かめるように、頬に熱を帯びた大きな手が触れた。


「えっ、枕絵って春画のことですよね?嫌です。恥ずかしい」


「冗談ですよ。俺だってあんたのこの姿は誰にも見せたくないですから。たとえ絵師でもね」


彼の声は切なげだ。


まるで残されたあと少しの時間を惜しんでいるみたい。


…嫌だ。


「友衣さん?」


私の異変に気付いた彼が顔を覗き込んでくる。


「行かないで下さい」


「え?」


「私をおいて行かないで下さい」


思わず左近様の腕にすがりつく。


「おいて行きませんよ」


「だって左近様、名残惜しそうな目をしています」


「そんなこと」


フイと目を逸らされる。


ますます怪しい。


「嘘なのはわかってるんですよ」


すると彼は観念したように口を開いた。


「…本当は何もかも忘れてこのままあんたを誰も知らない場所に連れ去りたい。永遠に」


窓から差し込む月光が苦しそうな顔の左近様を照らし、その美しさについ見惚れてしまう。


「だが、俺は武士だ。殿に忠誠を尽くすと決めた以上、それは出来ない」


「戦になんか行かないで下さい」


大切な人を失うかもしれない、この幸せな時間がなくなるかもしれないという恐怖が急激に私を襲う。


「友衣さん」


左近様は少し困っているようだが、私は聞かない。


もうこのまま困らせまくって三成様にまで影響を及ぼして関ヶ原の戦いがなくなればいいという、とんでもなく大それたことまで考えた。
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