情炎の焔~危険な戦国軍師~
ふと月明かりの降り注ぐ廊下の途中で立ち止まり、横抱きにした彼女の顔を覗き込む。


「ふっ」


まるで小さい子供のような寝顔に思わず笑みがこぼれる。


「こんなに無防備な寝顔を平気で男のいる場所でさらすんだから」


彼女の部屋に連れて行き、そっと布団に寝かせる。


「左近様…」


寝言とわかっていながらその声にどきっとしてしまう。


いや、寝言とわかっているからこそかもしれない。


殿の言葉を思い出す。


「友衣はお前のことをこれほど深く眠り込んでも想っている。寝言でも名前を呼ぶくらいにな」


あの方はこの寝顔を、寝言をどんな気持ちで見、聞いていたのだろうか。


「ったく、どこまで可愛い一面を見せるつもりですか」


そう言っても無邪気な寝顔は変わらない。


「なんにも気付かないで、こんなに俺の気持ちを掻き乱す友衣さん、あんたは罪な人だ」


柔らかな頬にそっと触れると何かを感じたのか、彼女の花びらのような唇がわずかに動く。


しかし、起きはしない。


「おやすみなさい」


燃え上がる想いを振り払うように早口でそう言い、足早に部屋を出た。


やはり神秘的な月光が廊下にも俺にも落ち、切なさが込み上げた。


そして思った。


あの穏やかな寝顔をこの先も守りたい、と。
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