情炎の焔~危険な戦国軍師~
「やめる?」


三成様は私の言ったことの意味が理解出来ないらしく、眉をひそめる。


「はい。戦なんてやめて、いっそのこと家康殿に天下を任せたらどうです」


そうなれば三成様が処刑されることもなくなるはずだ。


「お前、オレが負けると思っているのか?」


「一番そう思っているのは三成様自身なんじゃないですか?これ以上老いることはないとか、迷惑をかけることはないだなんて言って」


「…」


黙ってしまった三成様を私はじっと見た。


「負け戦に人命も財力も費やすなんてバカげています」


「吉継にも言ったが、オレ達がここであきらめたら上杉に迷惑がかかる」


しかし、家康殿は上杉家を本気で討とうとして出兵したんじゃない。


家康殿が大坂を空ければ佐和山に蟄居している三成様が挙兵することなどお見通しだったはずだ。


この後250年続いていく江戸幕府を開いたようなあの人が、大坂という場所を何の考えもなしに空けたとは考えにくい。


と、すれば上杉家の挑発にわざと乗って心の奥ではさらに大それたものを狙っているはずだ。


例えば最大の反逆者、三成様の首。


そのようなことを語ってみた。


この後250年続いていく江戸幕府を開いたような、の部分以外は幸い声が出なくなる現象は起きなかった。


しかし。


「友衣に家康の何がわかる」


と一蹴された。


「お前、もしや徳川の間者じゃあるまいな?」


「違います!なぜそんなことを言うんですか」


すると三成様はハッとしたような顔になった。


「…そうだな、すまぬ。少し神経質になりすぎた」


「いえ」


「しかし、お前がどう言おうが協力してくれる上杉家への義は通さねばならぬ」


「義のために死ぬ覚悟なのですか?何度も言いますが負け戦ですよ」


「以前、やってみなければわからないと言ったのはお前だろう」


「ううっ…」


今度は私が言葉につまる番だった。


「だったらなぜ、もう老いることはないとか言ったんですか?」


なんとか食い下がってみる。


「未来では戦はないのか?」


「はい」


「それならば話してもわかるまい」


「そんな…」


どうしてそんなこと言うの?


ついには


「悪いが、オレは少し腹が痛い。しばし休むからお前ももう下がれ」


と言われてしまった。
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