情炎の焔~危険な戦国軍師~
こうして私達は大垣城を出て闇夜の中、関ヶ原に向かった。


敵に気付かれてはならないから、提灯を持って行くわけにはいかない。


行く手の向こうにある、篝火だけが頼りだ。


(寒いなあ)


雨がパラパラと降っている。


風もヒュウと音を立て、無情にも体温を奪って走り去っていく。


こんなところで風邪なんか引いてたまるか。


その思いを胸に燃やし、耐えた。


その時、私は三成様や左近様のすぐ近くにいたのだが、三成様の様子がどうもおかしい。


「っ…」


声にならない声が何度も聞こえてくる。


「すまぬ。少し休ませてくれないか」


ついには馬を降りてしまったらしい。


「殿?」


「三成様?」


暗闇に慣れ始めた目でなんとか駆け寄る。


そっと肩に触れると、雨に濡れて恐ろしく冷たい。


「心配するな。少し腹が痛むだけだ」


その声にも生気がない。


「大丈夫ですか?」


私は手荷物から羽織を取り出し、三成様にかけた。


「これはお前が着ろ。風邪を引くぞ」


「いいです」


「オレは、大丈夫だ…」


そんなかすれた声で言われても信じられない。


「三成様、無理しないで下さい。遠慮したら怒りますよ」


半ば脅して羽織を押し付ける。


それから三成様の腹痛が少し引いた頃、また出発した。


その間にも夜はどんどん更けていった。


慶長5年9月15日午前0時。


関ヶ原の戦いまであと数時間。
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